インバウンドと泊食分離についての記事を、ここ数年は多く見かけます。
日本では泊食分離料金はホテル以外ではあまり採用されておらず、もっと推進していこうよ。
という傾向にあるようです。
「泊食が全て含まれた、日本の旅館の料金体系はナンセンス 」という、ちょっと強めのご意見もあるようです。
その主な理由としては、自分の旅館でお金を落としてもらうための日本旅館の悪い風習である。というものが主な理由のようです。
確かに、バブル絶頂の大型ホテル旅館なんかでは、そういった考え方のホテルや旅館もあったのかもしれませんが、
少なくとも、そういった理由で泊食含料金で経営を行っているお宿は少ないと思います。
宿屋を営む人間として、私の意見は
「泊食分離料金も、泊食含料金も、どちらも場所や文化を考慮して選択すべきで、どちらが良い悪いではない」
例えばですが、近くに食べるところが何もない山宿であれば、泊食分離には向かないケースが多いと思います。
街まで降りて、飲んで帰ればタクシー代や代行代金がかかります。これは、お客様にとってマイナスになりえます。
※うちの宿屋なんかはこれですね。といっても、湯治宿ですので素泊まりもお受けしてますが、割合は圧倒的に少ないです。
出るか出ないかわからない食材を抱えてしまうと、逆にお客様にとって割高な値段設定をせざるを得ない状況になってしまいます。
それならば、仕入れ状況を予測しやすい泊食含まれた料金体系のほうが、結果的にお客様にも宿にとっても望ましい選択だと思います。
なによりも、そういう人里離れた環境の中で、培われた郷土食自体を楽しみに来られる方が圧倒的に多いはずです。
「観光のついでに泊まる」のではなく、「旅の目的が宿での時間」
逆に、市街地に近く利便性の高い立地のホテルや旅館。こちらは泊食分離を選択した方が、お客様に喜ばれるケースが多いと思います。ホテルにとっても、レストラン部門自体が他社との競争のなかで、切磋琢磨する環境が醸成されやすいことでしょう。
逆に、この場合は食事を含んだ料金だと、お客様に選択の窮屈さを与えるかもしれません。
また、絶対にこのホテルのシェフの料理が食べたいんだと、お客様に選んでいただく。そのためにある程度、在庫予測できたほうが、単価も下げられ、お客様に喜んでいただける。という方針が、あっても良い思います。
結局は、宿屋やホテルの主人がどんな宿を目指し、どんなお客様に喜んでいただきたいのか、ということに尽きると思うのです。
料金体系はその一部分に過ぎません。
どれが善で、どれが悪かではなく。
どちらもあっていい。
逆に、旅慣れすればするほど、その土地土地の風習や慣例、伝統にも興味を持つ方がたくさんいらっしゃいます。
「日本は宿泊料金の中に食事代も含まれてるんだって」
「へ~、珍しいね、今度はそっちに行ってみよう」
と、日本への入門旅行を済ませた方が、数回目にはそういう選択をされるようになるかもしれません。
そんな時に、日本固有の様式を残してる宿があったら、面白いと思うのです。
例えば、韓国旅行に初めて行った時にはとりあえず雑誌で有名な韓国料理屋に行ってみます。
たぶん大体、観光客を歓迎しているところなので、海外の方に馴染んでもらえる為の味付け。日本語喋れるスタッフもいる。便利で、入門には最適です。※国内旅行なら各地方の道の駅とかにあたる感覚。
でも、2回目、3回目となると、観光向けではなく、やっぱりもっと本格的な、地元の人が通われるお店なんかに行ってみたい。
当然、日本語表記なんてない。味付けも、地元仕様です。海外の人なんて知ったこっちゃない。
でも、そういうのが食べたいなと思うんです。
それと同じようなことが、今後この業界でも起こってくると思います。
日本は高度経済成長の時期に「建てろや建てろ」
と、大型ホテルをたくさん乱立しました。
そのときはきっとこんな感じでしょう。
「古臭い旅館やホテルなんて誰も来ないよ、海外を見てごらんよ。豪華な大型ホテルがたくさんある。これが世界基準なんですよ。さぁ、日本の宿屋の皆さん、どんどん大型ホテル化しましょうよ。観光バスもたくさん来ますよ。」
この顛末は、昨今の旅館情勢を見ればわかると思います。
時代に沿うことはもちろん大切です。
流行りや廃りがあって当然です。
ですが、時代へどのように自分の宿やホテルを添わせていくかは、違っていい。
各事業所で、いろんな選択肢があっていいと思います。
そして、その価値観を、しっかりお客様に伝えるのが我々の仕事です。
その一つの選択肢に、泊職分離があるだけのこと。
日本固有の文化なのであれば、それもまた選択の楽しみとして残っていて良いと思います。
また逆に、泊職分離の宿があってもよいと思います。
どちらも、良いと思うのです。
そこに、各経営者、主人のどんな想いがあるのか。それにつきます。
ここ数年の泊職分離の話題について、私はそう考えます。